1.豊島事件って何?

香川県土庄町豊島を舞台にした全国最悪規模の有害産業廃棄物不法投棄事件です。1990年、兵庫県警が姫路港からゴミ船を追跡し、内偵の末、強制捜査し摘発しました。「ミミズの養殖」を騙った大量の産廃の不法投棄容疑でした。豊島の西端28.5ヘクタールの土地に約6万9千平方メートルもの範囲にわたってシュレッダーダストなど大量の産廃が不法投棄され、野積みや野焼きをされていました。摘発で不法投棄と野焼きの被害は止まりましたが、現場には大量の廃棄物が残されました。廃棄物から浸出した有害物質を含む水は、生活の場であり国立公園でもある瀬戸内海を汚染していました。


2.豊島はどんな島ですか?

豊島は離島の離島、香川県小豆島の西約4kmにある周囲約20kmの島です。摘発当時の人口はおよそ1600人、漁業・農業・石材業が主な産業でした。家浦(いえうら)と硯(すずり)、唐櫃(からと)、甲生(こう)の集落があり、3つの自治会があります。2021年現在の人口は約760人、高齢化率は50%を超えています。過疎化と高齢化の進む島です。


3.どのようなゴミが持ち込まれたのですか?

自動車破砕くずのシュレッダーダスト、製紙汚泥、石膏ボード、銅精錬のくずである鉱さい、工場から出る廃油、廃酸、廃塗料、廃有機溶剤などでした。いずれも都会や工場地帯で生じたゴミでした。


4.なぜ豊島にゴミが持ち込まれたのですか?

豊島は県境に位置する過疎の離島であり、一般の人には何が起こっているのか見えにくい状況でした。業者は以前から土砂を採取しており、跡地に大量の廃棄物を持ち込むことが可能でした。
事件の背景には大量生産・大量消費・大量廃棄という社会システムの問題がありました。


5.なぜ不法投棄を止められなかったのですか?

業者を指導監督する立場にある香川県の職員は業者の暴力を恐れました。香川県は業者が行っているのは廃棄物の最終処分ではなく金属回収業であると住民たちに説明し、業者には古物商の届出をするように指導しました。こうして業者は公然と不法投棄を長年にわたって続けることができたのです。


6.なぜ公害調停を申し立てたのですか?

住民たちは公害紛争処理法に基づく公害調停を申し立てました。訴訟をするとなると住民たちが廃棄物の総量や有害性を立証する必要がありますが、住民たちにはそのような調査をするお金はありません。この調停制度を利用すれば国の費用で国に調査してもらうことができます。香川県は廃棄物の安全宣言をしており、これを覆すためには国による詳細な調査が必要でした。


7.弁護団はどのようにして結成されたのですか?

1993年10月10日、住民たちから相談を受けた中坊公平弁護士・岩城裕弁護士は初めて現場を見ました。中坊弁護士はあまりの惨状に驚くとともに香川県に対して強い憤りを覚えました。他方において事件の解決がとてつもなく困難であるとも思いました。中坊弁護士は住民たちに「住民の皆さん方がどこまでおやりになる気があるのか」と問いかけました。住民たちは相談の上、中坊弁護士に最後まで闘うと約束しました。中坊弁護士はまず大阪の弁護士5名の弁護団を作り、後には13名まで弁護団を拡大しました。


8.住民たちは闘う費用をどうしたのですか?

豊島には家浦、唐櫃、甲生の三つの自治会があり、豊島問題を解決するため三つの自治会は、全戸が加入する廃棄物対策豊島住民会議を組織しました。公害調停成立までの25年間に交通費や事務費など多額の費用がかかりましたが、これらの費用は自治会の人数比に応じて自治会が負担しました。調停成立までの7年間に豊島が負担した費用はおよそ1億円でした。


9.処分地はどのような状態でしたか?

国の調査によって廃棄物の総量は48万立方メートルと推定され、鉛やトリクロロエチレンなどの有害物質が基準を大きく超えていることがわかりました。また高濃度のダイオキシンも検出されました。有害物質は雨水に溶け込み北海岸から瀬戸内海に流出していました。調査をした専門委員たちは処分地をこのまま放置することは許されないと結論づけました。


10.どのような調停が成立したのですか?

香川県は、廃棄物の認定を誤り、業者に対する適切な指導監督を怠った結果、不法投棄と環境汚染を招いたことを認め、豊島住民に対して謝罪しました。香川県は2016(平成28)年度末までに不法投棄された廃棄物と汚染された土壌を豊島から搬出し地下水等を浄化することを約束しました。搬出した廃棄物は直島の処理施設で焼却・溶融して処理されることになりました。
廃棄物を排出した事業者はそれぞれ解決金を出し合い(合計3億2500万円)そのうちの1億7000万円は廃棄物の処理費用に充てられました。調停条項(前文)では「廃棄物の不法投棄にかかる事件において、その排出事業者が紛争の解決のため負担に応じた事例はなく、この調停は、この点において先例を開くものであった」と評価されています。


11.なぜ香川県が撤去しなければならないのですか?

香川県が廃棄物の認定を誤り、業者に対する適切な指導監督を怠ったために膨大な不法投棄と深刻な環境汚染を招いたからです。


12.撤去作業はどのように進んでいますか?

2001年から2022年3月まで、暫定的環境保全措置と呼ばれる工事によって周辺環境への影響は遮断されていました。2017年3月に完了した撤去作業は順調とは言えませんでした。さまざまな廃棄物が混在しているため前処理に手間取り、直島での溶融固化工程も困難を極めました。さらに撤去が進むにつれて処理しなければならない廃棄物と汚染土壌の量が当初の想定よりも大幅に増加し、処理完了後には約91万2千トンと発表されました(2018年3月)。しかしその後、取り残しの廃棄物が見つかり、2019年7月までにさらに約616トンが処理されました。事業費は国と香川県が負担しており、2023年3月時点で費用は約820億円弱と香川県は報告しています。


13.廃棄物を撤去した跡地はどうなるのですか?

処分地は公害調停とは別の民事訴訟によって豊島の三つの自治会が業者から所有権を取得しています。調停条項では「本件処分地を海水が浸入しない高さとしたうえ、危険のない状態に整地する」と定められています。2023年3月に処分地の整地が完了しました。雨水等の自然浄化による地下水の環境基準達成の確認後、住民に土地が引き渡される予定です。住民は処分地北海岸を自然海岸化することを望んでいますが、跡地を具体的にどのようにするかについては決まっていません。公害調停が世論の支持によって解決し、原状回復に莫大な公費が使われていることを考えるならば、歴史の評価に耐えられる跡地の利用を検討する必要があります。


14.豊島事件によって法律はどう変わりましたか?

豊島事件を契機として、廃棄物処理法は大幅に改正されました。廃棄物処理施設について規制が強化され、不法投棄の罰金は300万円から1億円まで引き上げられました。さらに、廃棄物処理業の許可の取り消し要件が追加され、排出業者への規制も強化されました。
廃棄物処理法とは別に新たな法律も制定されました。循環型社会形成推進基本法や各種リサイクル法も制定されました。豊島事件は我が国の廃棄物行政を転換する事件となりました。